ある日、王国の騎士たちに招集がかかった。王都で盛大な誕生日会があるらしい。
騎士として時間は厳守。遅刻するわけにはいかない。
とある村に駐在していた騎士は馬にまたがるや、山を越え、森を抜け、川を渡って王都へと急いだ。王への忠誠心を示す必要があったのだ。
途中、老婆が切り株に腰をかけていた。話を聞くと王都から自分の村へ戻る途中に足をくじいて動けないらしい。
村の場所は王都とは逆方向で、老婆を送り届けていては王様の誕生会には間に合わない。このあたりは夜になると獣がでてくるので、老婆を放置していくのは危険だった。
王様への忠誠心を取るか、老婆の命を救うのか。
騎士は悩み続ける・・・
・・・こういう話が好きやねん。
公務とプライベートの狭間で悩むシーンは誰にだってある。大事な商談と子供の運動会、単身赴任と子供の成長の見守り。接待と子供の誕生日。熱がある子供を祖母に預けて仕事へ向かわなくてはいけないシングルマザー。
いろんな状況や立場がある。
プライベートを大切にできた時もあれば、将来の家族の幸せを守るためと言い聞かせて仕事へいく時もあるだろう。
俺が4歳だった頃の記憶がある。
熱を出して、保育園を休んだ。俺は保育園が嫌いだったので、母親が仕事を休んで看病してくれたのがうれしかった。
次の日、熱は下がったのだけど、保育園に行くのが嫌だった。保育園の先生がこわい。給食の時に食べ終わるまで横でじっと見ているのがこわい。眠くないのにお昼寝をしなくてはいけなくて、起きていると怒られる。眠ったふりをするけど自分だけ起きているので寂しくなる。。。
保育園にいきたくない理由を並べて、母親を困らせた。その日、俺に熱はなかったのに、母親は仕事を休んでくれた。
その当時、父親が会社をやめて資格をとる勉強をしていたので、家計をささえていたのは母親の仕事だった。今よりももっと女性が働きにくい社会だったと思う。そんな状況で仕事を休むという決断は大変なことだっただろう。
そんなことをわからなかった俺はただ無邪気に喜んだ。
次の日がやってきた。俺はおそるおそる母親に頼んだ。「今日も保育園いきたくない。お仕事休んでほしい・・・」
母親のあの時の困った顔は今でも思い出す。
少し目を潤ませて、今日は休めない。
そういって俺を保育園につれていき、母親は仕事へと向かった。
子供をもった今の立場ならよくわかる。あの時母親は辛かっただろうなー。
*******
嫁のお父さんは転勤族だったそうだ。
中小企業だったその会社は全国へ支店を出したかったがお金もなく、一般住宅を借りて、そこへ社員と家族を住まわせ、同時に支店の事務所とした。
支店長1名の支店であり、家族も一緒に住んでいた。
車は社用車をプライベートにも使うことができたが、それが当時からわがままだった嫁からすると気に入らなかった。
「こんなダサいロゴマークが入った車に乗りたくない!」
さすがである。
小学校2年生くらいだったらしいが、わがまま娘の才能を見せていた。嫁は言い出したら効かない頑固な性格で当時からそうだったらしい。せっかく家族で遊びに行こうというタイミングでそんなことを言うので、両親を困らせていたようだ。
困ったお父さんはあろうことか社用車のロゴマークを消すことにした。
今から30年以上前の話で、年功序列と終身雇用が当たり前の時代だ。会社への忠誠心が出世へと強く影響するその時代に、一人支店長とは言え、与えられた社用車のロゴマークを勝手に消したそうだ。
コンパウンドでこすったりしたのだろうが、一生懸命自分のためにロゴマークを消している父親の姿を娘はずっと見つめていた。嫁はそんなお父さんが大好きだったらしい。
*******
つい先日、俺がウォーキングから帰ってきたら娘がギャンギャン泣いていた。幼稚園で連絡帳に冬休みの間に毎日貼るように指示されていたシールをさっそくなくしてしまったらしい。
「出しっぱなしにしてるからや!」
「ママ~(T_T) 一緒に探して~」
「知らん!自分で探し!出しっぱなしにしてたのが悪い!」
「ママ~(T_T) 幼稚園に連絡してシールもらってきて~怒られちゃう~(T_T)」
娘は俺の子とは思えないほど真面目なので、幼稚園の先生に言われたことができないと超絶怒られると思い込んでいるらしい。
ヨメの方はというと、この機会に出しっぱなしにするくせ治したいとおもっているのでお灸を据える意味で、娘に反省をさせたい。
しかし、あまりにも娘が泣き続けるので、幼稚園にいきたくないと言い出したら困ると考え、俺に相談してきた。
俺「何か別のシールを貼って、幼稚園にはなくしました、でも毎日言われたとおり貼りましたって言えばいいんちゃう?」
ヨメ「わかった。そうするわ」
ヨメは本来旦那にはきびしくとも、娘には甘い性格で、泣いている姿を見ると可哀想で耐えられないんだけど、自分のようにわがままに育ってほしくないらしく、わりと厳しく当たるようにしているところがある。
仕事に出かける準備をして、ふとシールの件はどうなったかなとリビングに行くと、娘がペンで何やら絵を書いている。
何をしているんだろうと覗き込む
俺はびっくりした
幼稚園のシールを偽造しているのである笑
既に連絡帳に貼ってあったシールを横に見本として置き、無地のシールの上に花や星の絵を書いて色を付けて、幼稚園のシールになんとか似せようとしている。
俺はただ適当なシールを代わりに貼ればいいと思ったんだけど、ヨメは無地のシールに書かせて工作させることにしたらしい。
こんな面倒なことはシールをなくしたりしなければやらなくて済むことなのだ。それをきちんと娘にやらせて罰を与え、同時に怒られるかもしれないと心配していた娘のケアをおこなうことができた。
俺はちょっとヨメを見直した。
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子育ては親がどうコントロールしてもどうにもならないことがある。結局は親の背中をみて子供が育つし、遺伝の問題もあるだろう。
英語の勉強をしろ!と口を酸っぱくして言っている親が英語を全く話せないならちょっとその教育には無理があると思う。
せめて一緒にやらないと。
でも俺は子供の将来をコントロールなんてできないからと言って、何もしないという選択肢はとりたくないなと思う。
今回のヨメのように、はたまたコンパウンドでロゴマークを消したヨメの父親のように、仕事を休んでくれた俺の母親のように、何が正解なんだろうと「頭を悩ませる」ことが大事なんだと思う。
悩みに悩んで、どんな選択をしてもそれ自体は子育てにたいした影響を与えないと思う。
ただ、悩んだり、苦しんだことをきっと子供は感じ取って覚えているんじゃないだろうか。
わたしのために悩んでくれてありがとうと、子供たちの心の記憶の何処かに格納されていると思う。
だからきっと子育てに正解なんてない、ってみんな親たちは言うんだろね。
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王様の誕生会に結局、騎士は間に合った。
老婆に事情を話し、これから王様の誕生会にいかなくてはいけないと伝えたのだ。
それなら老婆は置き去りに?
いや、騎士は老婆も誕生会につれていくことにした。
無関係な人間を連れてきた騎士にむかって、王様は訝しげにその人は?と尋ねると騎士はこう答えた。
「この人はわたしの母親です」
自分の誕生日に母親まで連れてきてくれたことを王様はたいそう喜び、騎士の忠誠心を認めた。
騎士は帰りの道で老婆を村までおくり、誰も傷つくことはなかったのだった。
自宅につくと騎士は鎧と兜を脱ぎ捨てて、疲れたようにこうつぶやいた。
もうええわ
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